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東京地方裁判所 平成2年(ワ)15675号 判決 1992年7月20日

原告兼原告鈴木和夫・同鈴木次夫法定代理人親権者

鈴木南江

原告(未成年)

鈴木和夫

鈴木次夫

原告

鈴木参夫

鈴木北江

原告ら訴訟代理人弁護士

相澤建志

松本郁美

被告(未成年)

甲野一郎

被告兼被告甲野一郎法定代理人親権者

甲野二郎

甲野春子

被告(未成年)

乙川三郎

被告兼被告乙川三郎法定代理人親権者

乙川夏子

被告甲野一郎・同甲野二郎・同甲野春子同乙川三郎・同乙川夏子訴訟代理人弁護士

木下達郎

被告(未成年)

丙沢四郎

被告兼被告丙沢四郎法定代理人親権者

丙沢五郎

丙沢秋子

被告丙沢四郎・同丙沢五郎・同丙沢秋子訴訟代理人弁護士

山口広

古田典子

被告(未成年)

丁海七郎

被告

田中八郎

被告兼被告丁海七郎法定代理人親権者

丁海冬子

被告丁海七郎・同田中八郎・同丁海冬子訴訟代理人弁護士

網野久治

主文

被告甲野一郎、同甲野二郎、同甲野春子、同乙川三郎、同乙川夏子、同丁海七郎、同田中八郎は、連帯して、原告鈴木南江に対し、三七三二万七一六四円、原告鈴木和夫と同鈴木次夫に対し、それぞれ二一七四万四五〇三円、原告鈴木参夫と同鈴木北江に対し、それぞれ一一〇万円と、これらに対する平成二年六月二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告甲野一郎、同甲野二郎、同甲野春子、同乙川三郎、同乙川夏子、同丁海七郎、同田中八郎に対するその他の請求と原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用中、原告らと、被告甲野一郎、同甲野二郎、同甲野春子、同乙川三郎、同乙川夏子、同丁海七郎、同田中八郎との間に生じた分は四分し、その一を原告らの負担とし、その他を被告甲野一郎、同甲野二郎、同甲野春子、同乙川三郎、同乙川夏子、同丁海七郎、同田中八郎の負担とし、原告らと被告丙沢四郎、同丙沢五郎、同丙沢秋子、同丁海冬子との間に生じた分は原告らの負担とする。

この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告鈴木南江に対し、四八九〇万七九六七円、原告鈴木和夫と原告鈴木次夫に対し、それぞれ二四四五万二九八三円、原告鈴木参夫と原告鈴木北江に対し、それぞれ五五〇万円とこれらに対する平成二年六月二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一本件は、少年四名が深夜二台のオートバイに分乗して町中を走行していた際、被害者からオートバイの騒音を注意されたことから、少年のうち二名が被害者に対して暴行を加えて傷害を負わせて死亡させたことについて、被害者の相続人(妻、子)と両親が少年四名とその両親に対して不法行為による損害賠償の請求をした事案であるが、被告らは、少年のうち二名については暴行に加担していない、少年らの両親は少年らの監督義務を怠っていないと主張して不法行為責任を争うとともに、被害者にも本件について落ち度があった(過失相殺)と主張している。

二争いのない事実

1  当事者

(一) 原告鈴木南江は、東京都大島町役場職員であった亡鈴木元夫(以下「亡鈴木」という。)の妻であり、原告鈴木和夫と同鈴木次夫は、亡鈴木の子であり、原告鈴木参夫と同鈴木北江は、亡鈴木の両親である。

(二) 被告甲野二郎と同甲野春子は、被告甲野一郎(昭和四八年一月一三日生まれ。以下「被告甲野」という。)の両親(親権者)であり、被告乙川夏子は、被告乙川三郎(昭和四七年七月二五日生まれ。以下「被告乙川」という。)の母(親権者)であり、被告丙沢五郎と同丙沢秋子は、被告丙沢四郎(昭和四七年七月三一日生まれ。以下「被告丙沢」という。)の両親(親権者)であり、被告田中八郎と同丁海冬子は、被告丁海七郎(昭和四八年三月四日生まれ。以下「被告丁海」という。)の両親(親権者は被告丁海冬子)である。

2  事件の発生

亡鈴木は、平成二年六月二日午前一時二五分ごろ、東京都大島町<番地略>下田薬局前歩道上で、被告甲野、同乙川、同丙沢、同丁海(以下、この四名を「被告甲野ら」という。)が分乗して走行中の二台のオートバイに対し、騒音がうるさいと注意したところ、被告甲野と同乙川は、亡鈴木に対し、顔面等を殴り、腹部等を蹴る等の暴行を加えた(その際、被告丙沢と同丁海は、暴行を加えていない。)。その結果、亡鈴木は、同所で腹腔内出血、後腹膜血腫、結腸間膜血腫、膵損傷、顔面皮下血腫、耳出血、鼻出血、意識消失、出血性ショック、重症感染症等の重症を負い、同年七月五日、入院先の東京都立広尾病院(以下「広尾病院」という。)でこの傷害を原因とする後腹膜壊死、腹膜炎、敗血症により死亡した。(傷害名と死亡原因について、<書証番号略>)

三争点

1  被告らは、亡鈴木の死亡について不法行為責任を負うか。

(原告らの主張)

(一) 被告甲野、同乙川、同丙沢、同丁海の共同不法行為責任

(1) 被告甲野と同乙川は、亡鈴木に対して本件暴行を加えた。

(2) 被告丙沢と同丁海は、本件現場に止まり、見張りをするなどして被告甲野と同乙川の暴行を幇助したか、被告甲野と同乙川の暴行を制止させる義務を怠った(不作為による不法行為)。

(二) 未成年者である被告甲野らの両親である被告らの不法行為責任

これらの被告らは、自分の子を指導監督すべき義務を怠った結果、被告甲野らが本件事件を起こした。

2  本件暴行により被った亡鈴木と原告らの損害はいくらか。

3  亡鈴木に過失相殺すべき落ち度(同人の挑発行為)があったか。

4  将来給付の亡鈴木の遺族共済年金を原告らの本件損害賠償請求権から控除すべきか。

第三判断

一被告甲野、同乙川、同丙沢、同丁海の不法行為責任

1  本件事件の発生の経緯に照らすと、被告甲野と同乙川が亡鈴木の死亡について共同不法行為責任を負うことは明らかである。

2  被告丙沢、同丁海

(一) <書証番号略>、被告丁海と同丙沢の各本人尋問の結果(各一部)によると、次の事実が認められ、この認定に反する被告丁海と同丙沢の各供述部分は採用することができない。

(1) 被告甲野らは、飲酒、喫煙をし、無断外泊を繰り返し、夜間にオートバイを乗り回す仲間であったが、平成二年六月一日午後一一時ごろ、二台のオートバイに分乗してスナックに行き、相当量の飲酒をした(ただし、被告丁海は、飲めないため、飲酒をしなかった。)。飲酒をした後、被告甲野らは、スナックを出て、二台のオートバイに分乗し(一台に被告甲野運転、同丁海後部座席に乗車、他の一台に被告乙川運転、同丙沢後部座席に乗車)、町中を走行した。

(2) 他方、亡鈴木は、友人の佐藤世夫(以下「佐藤」という。)と別のスナックで飲酒をした後、スナックを出て、歩道を歩き始め、本件現場付近に来た。そこに、被告甲野運転のオートバイが音を立てて走ってきたため、亡鈴木は、被告甲野に「うるさい」と注意した。亡鈴木の注意に腹を立てた被告甲野は、翌三日午前一時二五分ごろ、オートバイから降りて、亡鈴木に対し、殴る蹴るの暴行を始めた。後からオートバイを運転してきた被告乙川も、被告甲野が暴行を始めたことに刺激を受け、そばにいた佐藤に対し、被告甲野と同様に、殴る蹴るの暴行を加えた。

(3) 被告丁海は、被告甲野に対して数回暴行を止めるよう言い、亡鈴木に暴行を加えなかった。しかし、被告甲野が被告丁海の制止に応じなかったため、被告丁海は、本件現場で被告甲野の行為を見ているだけであった。その後、被告丁海は、警察のパトロールカーが来るような気配を感じ、被告甲野らにこれを伝え、本件現場から逃走しようとした。しかし、それがパトロールカーではないとわかると、被告甲野らは、本件現場に戻り、被告甲野や同乙川は、再び、佐藤に暴行を加えた。ところが、被告乙川は、亡鈴木がいなくなったことに気付き、被告丁海に亡鈴木について聞いたところ、被告丁海は、亡鈴木が逃げたと答えた。そのため、被告乙川は、亡鈴木を探し始めたが、被告丁海も、被告乙川の後をついていった。そして、被告乙川は、亡鈴木が道路からビジネスホテルに通じる階段の上に隠れていることを発見したので、亡鈴木を道路に引きずり出して暴行を加えようとした。被告丁海は、その際、被告乙川と亡鈴木の接触により、亡鈴木の背後のホテルのガラス戸が割れることを心配し、亡鈴木の背後とガラス戸の間に手を入れ、亡鈴木がガラスにぶつからないようにしたが、かえって、亡鈴木を階段の方に押し出す結果になり、そのはずみで、被告乙川と亡鈴木は、ともに階段を転げ落ちた。そして、被告乙川は、階段の下の道路上で、亡鈴木に対して殴る蹴るの暴行を加えた。他方、被告甲野は、佐藤に対して同様の暴行を加えた。その後、被告丁海が警察のパトロールカーが来るのを認め、被告甲野らにそれを告げたため、被告甲野らは、オートバイで本件現場から逃走した。

(4) また、被告丙沢は、被告乙川の運転するオートバイで本件現場に来たが、被告甲野がすでに亡鈴木に対する暴行を始め、被告乙川も佐藤に対して暴行を始めたため、被告乙川に対し、暴行を止めるよう再三にわたり言ったが、受け入れられなかった。そのため、被告丙沢は、本件現場にいたが、被告甲野や同乙川に協力するようなことはしなかった。そして、最後に、被告甲野と同乙川の暴行が亡鈴木に向けられたすきに、被告丙沢は、暴行を受け、傷害を負った佐藤を抱き起こし、被告甲野や同乙川から避難させ、佐藤を救出した。

(二)  (一)の事実によると、被告丁海は、初めは被告甲野に暴行を止めるよう言ったが、被告甲野が暴行を止めなかったため、制止行為を止め、本件現場にとどまり、被告甲野の行為を見ているだけであり、その後に警察のパトロールカーが来るような気配がすると、被告甲野にその旨知らせたり、亡鈴木がいなくなると、被告乙川とともに亡鈴木を探したり、被告乙川がビジネスホテルの階段から引きずり出すことを結果的に容易にするような行動をとったりして、被告甲野や同乙川の暴行を協力した―すなわち、幇助した―と認められるから、被告甲野や同乙川とともに共同不法行為責任を負うものといわざるを得ない。

他方、被告丙沢は、仲間とはいえ、被告丙沢の意志にかかわりなく、被告甲野や同乙川が暴行を始めてしまったので、被告甲野や同乙川に対し、暴行を止めるよう言い、被告甲野や同乙川が暴行を止めなかったため、それ以上、被告甲野や同乙川の暴行に協力するような行為をしていないばかりか、負傷した佐藤を救出しようとした。そうすると、被告丙沢は、被告甲野や同乙川の暴行に幇助したということはできないし、被告丙沢が前記のようにした以上に被告甲野や同乙川の暴行を制止する義務はなかったといわざるを得ず、幇助ないし不作為による不法行為責任を負わない(そうすると、被告丙沢の両親である被告丙沢五郎と同丙沢秋子も、不法行為責任を負わない。)。

二被告甲野二郎、同甲野春子、同乙川夏子、同田中八郎、同丁海冬子の不法行為責任

1  <書証番号略>、被告甲野二郎、同乙川夏子、同丁海七郎の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一) 被告甲野、同乙川、同丁海は、学校にも行かず、ぶらぶらした生活を送り、夜中に友人の家に行ったり、飲酒、喫煙、オートバイの運転などをしていた。本件事件は、被告甲野、同乙川、同丁海の日常の生活態度の延長線で起きたものである。

(二) これに対し、被告甲野の両親や被告乙川の母は、被告甲野や同乙川の生活態度を認識しながら、この日常生活について指導監督をせず、放任していた。特に、被告甲野二郎は、被告甲野が高校に入ってから、夜、家をでてオートバイの騒音を立てて乗り回し、飲酒、喫煙、無断外泊を繰り返していたことを知っていたが、被告甲野を指導監督せず、「勘当」と称して家から追い出し、被告甲野の行動について放任した。これにより、被告甲野は、ますます、素行が悪化した。

(三) 被告丁海の両親である被告田中八郎と同丁海冬子は、昭和五六年一〇月一七日、被告丁海の親権者を被告丁海冬子と定めて協議離婚し、以後、被告丁海冬子が被告丁海を養育していた。しかし、平成元年五月ごろ、被告丁海と母の折り合いが悪くなり、被告丁海は、母のもとを出て、父被告田中八郎のもとに行き、父と暮らすようになった。その間、被告田中八郎は、被告丁海が自己のもとにいることを承知していたが、被告丁海の日常生活について指導監督をせず、放任していた。他方、被告丁海冬子は、被告丁海が家を出て同田中八郎のもとに行った後は、被告田中八郎に指導監督を任せ、被告丁海冬子自身が被告丁海を監督することができる状態にはなかった。

2 1の事実によると、被告甲野の両親である被告甲野二郎、同甲野春子、被告乙川の母である被告乙川夏子、被告丁海の父である被告田中八郎は、その子に対する監督義務を怠り、その結果、深夜町中を徘徊して本件事件を起こし、亡鈴木を死亡させるに至ったといえるから、本件事件について不法行為責任を負うことになる。

しかし、被告丁海の母である被告丁海冬子は、親権者ではあるが、被告丁海が被告丁海冬子のもとを出て、父被告田中八郎のもとに行き、そこで生活するようになり、同被告もこれを承知していたのであるから、本件事件の当時、被告丁海冬子には、被告丁海を監督する立場にはなかったといわざるを得ず、本件事件について不法行為責任を負わない。

三損害

1  亡鈴木の損害

(一) 入院関係 一一七万一一三〇円

原告鈴木南江の本人尋問の結果によると、亡鈴木は、本件事件により、前記のとおり負傷し、平成二年六月二日に藤井医院に入院したが、翌三日に広尾病院に転院し、死亡する同年七月五日まで広尾病院に入院していたこと、その間、原告鈴木南江や亡鈴木の両親と妹が交替で付き添っていたことが認められる。

そして、亡鈴木の入院に関する損害は、次のとおりである。

(1) 入院雑費〔主張金額一〇万六八六七円〕 四万〇八〇〇円

<書証番号略>、原告鈴木南江の本人尋問の結果によると、亡鈴木の広尾病院への入院に関して一〇万六八六七円の物品等を購入したことが認められる。

しかし、本件事件と相当因果関係がある入院雑費は、一日当たり一二〇〇円として三四日分が相当である。

(2) 入院付添費〔主張金額一五万三〇〇〇円〕 一五万三〇〇〇円

一日当たり四五〇〇円として三四日間分が相当である。

(3) 付添交通費〔主張金額一〇万〇三二〇円〕 一〇万〇三二〇円

<書証番号略>、原告鈴木南江の本人尋問の結果によると、原告鈴木南江らが宿泊先の島会館(東京都港区<番地略>)から広尾病院までタクシーで通院していたこと、そのタクシー代が片道一五二〇円であったことが認められる。

(4) 付添宿泊費〔主張金額五〇万九九〇〇円〕 五〇万九九〇〇円

<書証番号略>、原告鈴木南江の本人尋問の結果によると、原告鈴木南江は、平成二年六月四日から同年七月七日までの間、亡鈴木の付添いのために、島会館に宿泊し、その料金が五〇万九九〇〇円であったことが認められる。

(5) 親族交通費〔主張金額三六万七一一〇円〕 三六万七一一〇円

<書証番号略>、原告鈴木南江の本人尋問の結果によると、亡鈴木が危篤に陥った平成二年六月一八日と同月二三日に緊急の交通機関がなかったため、大島から熱海まで船をチャーターし(代金二〇万円)、熱海から東京まで新幹線を利用し(料金一万九〇八〇円)、原告らや亡鈴木の兄弟が付添いのために大島と東京を往復する際に飛行機を利用し(料金六万八六三〇円)、死亡した亡鈴木の遺体を大島に輸送する際に付き添った者の交通費として七万九四〇〇円を支出したことが認められる。

(二) 逸失利益〔主張金額五六八七万〇二八八円〕 五八七七万〇五九二円

<書証番号略>、証人三辻利弘の証言、原告鈴木南江の本人尋問の結果によると、亡鈴木は、大島町役場に勤務していたが、本件事故に遇わなければ、定年まで同役場に勤務していたであろうこと、その場合、大島町の条例によると、少なくとも、亡鈴木が取得する年別給与は、別紙のとおりになり、定年時の退職金は、二三七七万二八〇〇円になることが認められる。

そこで、生活費控除を三割(給与)、中間利息控除をライプニッツ式により算出される逸失利益は、次のとおりになる。

給与総額 五一八七万六四八〇円

(74,109,258(明細は別紙のとおり)×0.7=51,876,480)

退職金 六八九万四一一二円

(23,772,800×0.29=6,894,112)

(三) 慰謝料〔主張金額二五〇〇万円〕 二二〇〇万円

亡鈴木が本件暴行を受け、重傷を負い、約一か月にわたる入院生活の間痛みに苦しんだこと、亡鈴木が一家の支柱であったことを考慮すると、亡鈴木の死亡による慰謝料は、二二〇〇万円が相当である。

(四) 合計 八一九四万一七二二円

2  相続

1の亡鈴木の損害を、相続割合に応じて、原告鈴木南江が二分の一の四〇九七万〇八六一円、原告鈴木和夫と同鈴木次夫が四分の一の二〇四八万五四三〇円あて相続したことになる。

3  葬儀関係

(一) 原告らは、葬儀関係の損害として、次の項目の損害を主張する。

(1) 葬儀費用〔主張金額二七七万四三一六円〕

(2) 四九日法要費用〔主張金額七三万三五八三円〕

(3) 仏壇購入費〔主張金額八〇万八五五〇円〕

(4) 墓石建立費(予定)〔主張金額一五〇万円〕

そして、<書証番号略>、原告鈴木南江の本人尋問の結果によると、亡鈴木の相続人が(1)ないし(3)の費用を支出したことが認められる。

(二) しかし、本件事件と相当因果関係がある葬儀関係の損害は、葬儀費用として一〇〇万円であるとみるのが相当であるから、原告らの個別の損害は、相続分に従い、原告鈴木南江五〇万円、同鈴木和夫、同鈴木次夫各二五万円になる。

4  原告鈴木参夫、同鈴木北江の慰謝料〔主張金額各五〇〇万円〕

原告鈴木南江と同鈴木参夫の各本人尋問の結果によると、原告鈴木参夫と同鈴木北江は、一人息子であった亡鈴木の死亡により、精神的苦痛を受けたことが認められる。

そうすると、原告鈴木参夫と同鈴木北江の慰謝料は、各一〇〇万円が相当である。

四過失相殺

<書証番号略>には、亡鈴木が被告甲野らにバイクの騒音を注意した際、「稲川会」(暴力団)の組員であると言ったとの記載部分がある。

しかし、<書証番号略>によると、本件現場付近に居住していた柳瀬キミコは、本件事件発生当時、若者が「うるさいなら、警察に言ったらどうだ」とか「向かってきたらどうだ」とか発言しているのを聞いているが、「稲川会」の発言は聞いていなかったことが認められ、また、<書証番号略>によると、被告甲野が作成した平成二年六月四日付け上申書には、酒に酔った二人の男の人に「今何時だと思っているんだ」「うるさい」「名前はなんていうんだ」と言われ、頭にきてけんかになったと部分があるが、「稲川会」の点の記載はないことが認められる。そうすると、前記<書証番号略>の記載部分は、直ちに採用することができないし、他に亡鈴木が被告甲野らに「稲川会」の組合員であると言ったことが認められる的確な証拠もない。

したがって、亡鈴木は、騒音を注意しただけであり、その際に口論になったとしても、その原因が被告甲野らにある以上、過失相殺の対象になるような落ち度はあったとはいえない。

五控除金額

1  退職金

原告鈴木南江は、亡鈴木の退職金として六五五万二七七〇円を受領したことを自認するから、原告鈴木南江の損害賠償請求権から、この金額を控除する。

2  遺族年金

(一) 地方公務員等共済組合法(以下「法」という。)によると、組合員が死亡したときは、遺族共済年金が支給され(九九条一項一号)ところ、亡鈴木の遺族共済年金の額は、次のとおりになる。

平均給料月額 二四万二六八〇円(<書証番号略>)

組合員期間 一九五月(昭和四九年四月から平成二年七月まで)

①法九九条の二第一項一号イの金額五四万六〇三〇円

242,680×7.5/1000×300=546,030

②法九九条の二第一項一号イの金額一〇万九二〇六円

242,680×1.5/1000×300=109,206

③法九九条の三の加算額 四九万九五〇〇円

年金額((①+②)×3/4+③) 九九万〇九二七円

(二) ところで、被告らは、将来支給される遺族年金を原告らの損害から控除すべきであると主張するが、この主張は、失当である(最高裁昭和五二年五月二七日第三小法廷判決民集三一巻三号四二七頁、最高裁同年一〇月二五日第三小法廷判決民集三一巻六号八三六頁参照)。

(三) そこで、亡鈴木の遺族年金として平成二年から平成四年までに支給された二九七万二七八一円について、受給権者である原告鈴木南江(妻)、原告鈴木和夫と同鈴木次夫(子)の各損害賠償請求権から等分(各九九万〇九二七円(法四五条、四六条))に控除する。

3  控除後の損害賠償請求権は、次のとおりになる。

原告鈴木南江 三三九二万七一六四円

原告鈴木和夫、同鈴木次夫 各一九七四万四五〇三円

六弁護士費用

原告らが本件訴訟の提起と追行を本件原告ら代理人に委任したことは、当裁判所に顕著である。そして、本件事件と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、次のとおりとするのが相当である。

原告鈴木南江 三四〇万円

原告鈴木和夫、同鈴木次夫 各二〇〇万円

原告鈴木参夫、同鈴木北江 各一〇万円

七むすび

原告らの請求は、被告甲野、同甲野二郎、同甲野春子、同乙川、同乙川夏子、同丁海、同田中八郎に対し、連帯して、原告鈴木南江が三七三二万七一六四円、原告鈴木和夫と原告鈴木次夫がそれぞれ二一七四万四五〇三円、原告鈴木参夫と同鈴木北江がそれぞれ一一〇万円と、これらに対する平成二年六月二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払を求める限度で理由がある。

(裁判官春日通良)

別紙逸失利益計算表<省略>

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